リトムの写真

リトム~スクーロ湖ハイキング

【はじめに】たくさんの山上湖が点在するリトム湖周辺の山やアルムは地層学的にも大変貴重な場所で、地質学・植物学・生物学者などの専門家が多く訪れています。アルペン生物学センター(CENTRO BIOLOGIA ALPINA)もあります。
私も昔からここをホームベースとして何度も訪れ、スイスアルプスの高山植物の研究を進めています。
(注) このページでご紹介している写真やコメントは単年度のものではなく、時期も違う複数年の記録等を基にして作成しています。

1 今回ご紹介するリトム湖からスクーロ湖へ歩くハイキングコースは、スイスの南部に位置するティチーノ州にあります。
ハイキングのスタート地点となる最寄駅はアイロロで、スイスの北部と南部をつなぐ有名なゴッタルドトンネルを抜けて行きます。
チューリッヒHB(中央駅)から行くとすると列車で2時間弱です。下の写真はアイロロ駅の駅舎です。
アイロロ駅の写真
2 アイロロ駅前にはゴッタルドトンネル建設に携わり事故などで亡くなられた方たちを悼む石碑が建てられています。犠牲者の数は200人にのぼるといわれています。
急峻なアルプスで分断されていたスイス南北地域への交通をトンネルで結び、さらにイタリア方面へと導いたこのトンネルの建設はスイスのみならず、ヨーロッパ地域の人的交流はもちろんのこと、経済発展にも大きく寄与しています。
(さらに今ではゴッタルド基底トンネルも建設・稼働されています。)
ゴッタルドトンネル建設に携わり事故などで亡くなられた方たちを悼む石碑の写真
3 リトム湖へはこのアイロロ駅からファイド方面行きのバスに乗り、ケーブルの発着するピオッタチャントラーレ (Piotta Centrale) 駅まで行きます。
ただし、このケーブル駅を経由して行くバス便は本数が少ないので、手前のピオッタポストのバス停で降りて、歩いて行ってもよいでしょう。
所要時間は10分ほどですからたいしたことはありません。写真のように山の中腹に向かってケーブルの軌道が見えますから道に迷うこともないでしょう。
ピオッタチャントラーレ(Piotta Centrale)駅の写真
4 リトム湖は標高1800mほどの山の上にあります。ですからピオッタ駅からはフニコラーレ(ケーブル)に乗ってピオラ (Piora) に上がります。
近くには山道を巻きながら登る車道も整備されていますのでマイカーがあれば車でも上がれます。
下の写真はピオッタチャントラーレ (Piotta Centrale) 駅の切符売り場です。
【参考】拙サイト:ピオラ村のリトム湖について ピオッタチャントラーレ(Piotta Centrale)駅の写真
5 このケーブルは世界で最も急なケーブルカーの1つで、最大傾斜は87.8%といわれています。
スイスなどにはいくつかこのようなケーブルがありますが、ここも鉄道マニアには大変人気のあるケーブルです。
下のピオッタチャントラーレ駅と上のピオラ駅の標高差は790mほどあり、それを12分足らずでつないでいます。
ピオッタからピオラに上がるケーブルの写真
6 写真はピオラ駅に上がったところから下を見下ろしているところです。すごい斜度だということがよくわかります。
また下には、チューリヒ・クローテン空港やジュネーブ・コアントラン空港などの国際空港とは比ぶべくもなく規模の小さい地方空港のアンブリ空港(Ambri Airport)の滑走路が見えています。
ピオラからアアンブリ空港(Ambri Airport)の滑走路を見た写真
7 ケーブルの山上の駅ピオラで下車したら道標に沿って歩きやすい舗装道路を歩いていきます。
道標のある現在地はPiola Staz.(ピオラ・スタッチオーネ 1793m)になっており、リトム湖へはここから25分ほどで行かれます。
道標の写真
8 ピオラから7分ほど歩いたところに道標 Lago Ritom(1852m)があります。
道標の写真
9 そして下の写真のような短いトンネルを抜ければ前方右手にリトム湖の堰堤とホテルの建物が小さく見えてきます。
リトム湖は人造湖で、当初はSBB(スイス国鉄)の水力発電所として建設されました。
しかし今はその使命を終え、この地は避暑や釣り、マウンテンバイク、ハイキングなどを楽しむ基点として観光客に大変人気があります。
ハイキングの写真
10 下の写真はリトム湖(ダム)堰堤のすぐそばに建つ「リトム湖ホテル(Rifugio Lago Ritom)」です。
昔はホテルの経営者のご夫婦が大変ご親切な方で、特に奥様が日本の方でしたのでハイキングの際などに、焼き海苔で巻いたおにぎりやお漬物、それにリンゴなどを持たせてくれ、大変お世話になりました。
この方は、いまは別の場所で期間限定のペンションをされています。
ホテルRifugio Lago Ritomの写真
11 ここではホテルに寄らず湖畔の道に出て、左回りで歩きやすい道を行きます。
湖畔から左手の山の斜面を見上げれば、春、夏にはテガタチドリ(Gymnadenia conopsea)、ファイヤーリリー(Lilium bulbiferumu)、キンポウゲ科のグローブフラワー(Trollius europaeus)、アルペンローゼ(Rhododendron ferrugineum)など、さまざまな高山植物が群生しています。
この時期にはユリ科のパラディシア・リリアストゥルム(Paradisea liliastrum)が群生しています。
【参考】画像は拙サイトの「スイスアルプスの花図鑑」スマホ版を参照してください。
リトム湖とパラディシア・リリアストゥルムの写真
12 そして、湖岸の道を20分ほど歩くと道標が出てきます。この道標には今回の目的地であるスクーロ湖(Lago Scuro)まで1時間50分とあります。
さらに上にあるデントロ湖(Lago di Dentro)の近くにあるヒュッテ(Capanna Cadlimo)までは2時間25分です。このコースは雪の多いところでよく知られています。
7月に入ってもかなりの残雪があり、9月後半には早くも降雪があります。今回も、もし残雪が少なかったらこのヒュッテまで行ってみることにします。
道標の写真
13 下の写真は山の中腹からリトム湖を俯瞰した写真です。一番奥の方がピオラとホテルのある方向です。ここにダムの堰堤があり、雨や雪解け水で水位が上がってくると放流します。
【参考】水位が上がり放流する直前には、陸に生えていた草花がすべて水の中に埋もれ、まるで水中花のようになります。
ピオラをスタートして湖畔の歩きやすい道を15~20分ほど進み、進行方向斜め左に折れてスクーロ湖への登山道に入ります。
リトム湖を俯瞰した写真
14 リトム湖周辺のハイキングコースは雪さえない時期ならば比較的安全なので子供さん連れのファミリーがよくハイキングを楽しんでいます。
湖で遊んだり、釣りをしたり、花を愛でたり、牛さんと遊んだり、みんな楽しそうにしています。
子供連れファミリーハイカーの写真 子供連れファミリーハイカーの写真
15 初夏には雪解け水で湿った場所にグロブラリアやサクラソウ、オキナグサ、ムシトリスミレ、イワカガミなどが群生しています。
雪渓の上を渡って来た涼風に吹かれ、こんな素敵なお花畑に寝転んでいると、いつの間にか寝入ってしまいます。
グロブラリアの写真
     グロブラリア
サクラソウの写真
     サクラソウ
16 リトム湖の上にあるトム湖(Lago di Tom 2,022m)には道標(Alpe Tom 2,025m)が立っていて、ここからスクーロ湖(Lago Scuro)まで1時間20分とあります。
ここは分岐になっていて、隣のカダーニョ湖とヒュッテ(Capanna Cadagno)までは1時間です。スクーロ湖までは大変だからやめておこう、という方はここからカダーニョ湖を回って戻ってもよいでしょう。
トム湖(Lago di Tom 2,022m)の道標の写真
トム湖の写真

17 トム湖で暫し美しい景色を堪能したらさらに上を目指して歩き始めましょう。
やがて美しいカールに出て、小さな雪渓(残雪)がところどころに現れてきます。日本の高山でも同じですが、カールには可憐な高山植物が群生しています。
ハイキングの写真
オキナグサと残雪とリトム湖の写真
18 さらに30分ほど登ると、タネダ(Taneda 2,304m)の二つの小さな湖(池)が出てきます。その間を縫うように越えていきます。
この辺りから残雪が多くなり、山陰になる場所では雪渓のようになっています。
ハイキングの写真
ハイキングの写真
ハイキングの写真
19 湖の脇に残る雪の上を横切ってさらに登って行きます。お天気の良い日なら気温上昇により雪が緩み、アイゼンは使わなくても大丈夫です。
池のような小さな湖ですが、水はとても冷たく手を長く浸けておけないほどです。また、湖面は澄み付近の雪渓や山を投影してます。
ハイキングの写真
タネダ湖の写真
ハイキングの写真
ハイキングの写真
ハイキングの写真
ハイキングの写真
20 写真は雪渓の端に大輪の花を咲かせたプルサティラ・アルピナ(オキナグサ)です。
今の暦は7月中旬なのに、ここの季節はまだ早春です。春一番で咲く可憐な花がいろいろと見られます。
オキナグサの写真
     オキナグサ
21 そして最後に大きな岩で囲まれるようになっているところを登りきると、スクロー湖です。
ここからは涼風をいっぱいに受けて、いままで歩いてきた湖やハイキングコース、アイロロ方面の山並みが一望できます。この山並みの後ろ側に拙著「スイスの秘境を訪ねる旅」でご紹介したソノーニョやフジーオの村、サンカルロ・ロビエイのロープウェイなどがあります。こちらの山並みにもナレ湖やカヴァーニョ湖など美しい山上湖がいくつもあります。
目を転じて足元を見れば、岩の裂け目にミヤマムラサキの仲間であるエリトリキウム・ナヌムがひっそりと花を咲かせています。
スクロー湖から見たアイロロの山並みの写真
エリトリキウム・ナヌムの写真
22 そして岩場を数分歩くとスクーロ湖が見えてきます。今は7月中旬ですが、湖面はこのように真夏でも凍てついています。周辺の山もまだ残雪がいっぱいです。
凍てつくスクロー湖の写真
凍てつくスクロー湖の写真
23 先にも述べた通り、このコースには春夏を通じて美しい高山植物がたくさん咲いています。
以下にそのいくつかをご紹介します。
オキナグサ(プルサティラ・アルピナ)の写真
  プルサティラ・アルピナ オキナグサ(プルサティラ・ベルナリス)の写真
 プルサティラ・ベルナリス
パラディシア・リリアストゥルムの写真
 パラディシア・リリアストゥルム
ロサ・ペンドゥリナの写真
   ロサ・ペンドゥリナ
プラタンテラ・クロランタの写真
 プラタンテラ・クロランタ
ソルダネラの写真  ソルダネラ・アルピナ
ダフネ・ストリアタの写真   ダフネ・ストリアタ
プリムラ・ヒルスタの写真   プリムラ・ヒルスタ
24 このコースには真夏でも残雪がたくさんあり、その雪解け際には可憐な春の高山植物がたくさん顔を出しています。
花がお好きな方や、花の写真撮影を趣味にしている方にとってはまさに至福の時を過ごすことになるでしょう。
7月に入ってもスクーロ湖は凍てついており、湖に上がる道には結構な残雪があります。ハイカーもまだ少なく、この時期に訪れる方は十分気をつけてください。
リトム湖周辺にはこのコース以外にもたくさんの素敵なハイキングコースがあります。続編はまた次回に掲載します。
【所要時間】
◆ ピオラからスクーロ湖 2時間半
◆ スクーロ湖からピオラ 2時間
◆ 食事や休憩時間などを入れて5時間くらいみておけばよいでしょう。

ホテルから見た山の夕暮れの写真

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