- 第一章 謎の携帯メール
- 第二章 紙片と数字2515
- 第三章 不気味な第二のメール
- 第四章 カタコンベの秘宝
- 第五章 ケルト模様の教え
- 第六章 追ってきたチェゲッテ
- 第七章 悪魔の橋で悪魔に会う
- 第八章
本文はフィクションで実在とは無関係です。
本文はフィクションで実在とは無関係です。
ゲッシュネンの村へと歩くハイキング道は、途中で何回も車道と交差し、その度に道路を横切らなければならない。 しかし不思議なことに、ここでも全然、車に出合わなかった。
峠を越えたゲッシュネン側は、昨夜から相当の雪が降ったのだろう。
道路を横切ると、深い足跡がつくほどだから、きっと、この峠越えの道は、どこかで通行止めになっているのかもしれない。 すでに轍の上にもかなりの雪が積もり、ちょっと前に車が通ったという気配は感じられなかった。
可愛いハイカーの絵が書いてある道標に従って、木立の中の道を行くと、時折美佐子の足元に、木に積もった雪がドサッ、ドサッと落ちてくる。
そして執拗に垂れて下がってくる雨合羽のひさしを、捲り上げて前方を見ると、降りしきる雪の向こうに、ぼんやりと雪をかぶった橋が見えてきた。
美佐子は、あの橋を渡って車道に出れば、もうすぐゲッシュネンの駅だから大丈夫、と、自からを元気づけた。
橋はメガネ橋のようになっていて、中央が盛り上がっている。 この橋の歴史は古いが、何度か激流に流され、建て替えられている。
橋に積もった雪は新雪なので、足がずぼっ、ずぼっ、ともぐってしまう。
一歩一歩踏みつけながら、階段のようにして、慎重に上った。 そして下りにかかったとき、足元の雪はふっと、無抵抗になり、美佐子は、うかつにも、そのまま落とし穴に落ちるように、橋の向こう側に滑り落ちてしまった。
そのとき、美佐子は、「あっ、しまったぁ!」
と、大声を出して、叫んだような気がした。
急に足を払われるように宙に浮いた美佐子は、雪がすべり落ちて地肌を見せた石造りの橋に、頭をいやっというほど、強くぶつけたのだった。
それから何時間くらい経ったのだろうか? 気がつくと、ぼんやりと明かりがともり、目の前には渦を巻いたような木目の天井が見えた。そして、そこには、木の香りが漂うだけで、もう雪も降っていないし、寒くもなかった。