- 第一章 謎の携帯メール
- 第二章 紙片と数字2515
- 第三章 不気味な第二のメール
- 第四章 カタコンベの秘宝
- 第五章 ケルト模様の教え
- 第六章 追ってきたチェゲッテ
- 第七章 悪魔の橋で悪魔に会う
- 第八章
本文はフィクションで実在とは無関係です。
本文はフィクションで実在とは無関係です。
赤い車体で、窓の大きい氷河急行から、美佐子の方をじっと見ていた男は、やっと美佐子と確認できたのか、今度は大きく手を振った。そしてその横には、身を乗り出して手を振っている奥さんの姿もあった。
N'EXと、成田空港で一緒になったご夫婦だった。
美佐子は久し振りの再会だったので、話をしたかったが、残念ながら氷河急行のこの窓は開かない。仕方がないので窓越しに、身振り、手振りのジェスチャーで話しをすると、なんと、奥さんからも返事が返ってきた。
美佐子は手話ができたので、手話を使って話しかけると、奥さんからも手話で返事が返ってきたのだった。
ご夫妻は、チューリッヒ空港で別れてから、ツェルマットへ行き、アパートを借りて一週間滞在した。 そしてその後、サースフェーに寄り、これからサンモリッツへ行く途中だという。
美佐子の方は、今晩はここに泊まり、明日の朝、悪魔の橋を通ってゲッシュネンの村へ行くのだ、と答えた。
そして、電車は音もなくアンデルマットの駅を出て行った。
駅舎を出ると駅前広場には、たくさんの観光バスが停まっていた。
ツアー客は、みんなここでバスから電車へ、電車からバスへと乗り換えて、次の目的地に向かうのだ。
また、隣接するカフェでは、若い兵隊さんたちがお茶を飲みながら談笑している。アンデルマット近隣には軍隊の駐屯地がいくつかあるので、村の中を歩いていても、銃を持った兵隊さんたちによく出会う。
美佐子は、カフェの脇を通り過ぎる際、目が合った兵隊さんに軽く会釈すると、キャリーを引いて村の中心地へと歩いていった。
小川が流れる手前の広場には、ドイツの文豪ゲーテも泊まったことのある老舗ホテルがある。美佐子は、ここで働く友人に頼んで和風味の料理をつくってもらい、グラスワインを飲むと、久々にゆったりした気分になった。
夜になると、川のせせらぎが聞こえないほどの激しい雨が降ってきた。