- 第一章 謎の携帯メール
- 第二章 紙片と数字2515
- 第三章 不気味な第二のメール
- 第四章 カタコンベの秘宝
- 第五章 ケルト模様の教え
- 第六章 追ってきたチェゲッテ
- 第七章 悪魔の橋で悪魔に会う
- 第八章
本文はフィクションで実在とは無関係です。
本文はフィクションで実在とは無関係です。
ブリークの駅を出ると、電車はメレル、ベッテン、フィーシュの駅などを経由し、ゴムスの谷を軽快に走っていく。進行方向左手の山の上には、素晴らしいアレッチ氷河が望める、静かなリーダーアルプや、ベットマーアルプの村がある。その中でも特に、比較的容易に登れるエッギスホルンの頂上から見るアレッチ氷河は素晴らしい。
また、右手の丘の上には、世界音楽祭が開催されることでも有名なエルネンの村と、バシリカ風の基礎を持つ小さな教会が美しい。
この辺りの村には青銅器時代から人が住んでいたので、その遺跡が出土したり、16世紀の教会や建造物がたくさん残っている。以前、美佐子もこの沿線の小さな村々で下車し、近隣の名所を訪ね歩いたことがあった。
ラックスの駅で、電車には、小学生と思われる子供たちがたくさん乗ってきた。そして彼らは、カートレインでよく知られるオーバーワルト駅に到着すると、みんな下車した。その間、美佐子は俄か教師となり、子供たちに鶴やお雛様の折り紙を教えてあげると、みんな大喜びで、電車を降りてからも、いつまでも手を振っていた。
TV番組 「田舎に泊まろう」 の一場面ではないが、手を振る人影はやがて米粒のように小さくなり、長いトンネルに入るとともに消えた。
再び窓の外が明るくなると、レアルプの駅に到着した。
ここは、お天気の良い日なら素晴らしい景色が目の前に現れるのであるが、高度が高いせいもあってか、黒い厚い雲が張り出し、お天気はますます悪くなってきた。ファフラーアルプのホテルのオーナーが言っていたように、これから嵐がくるのだろうか?
やがて電車はゆっくりと下り始め、広大なホスペンタールの原野を悠然と走っていく。美佐子は、朝晩に、アンデルマットとアイロロ間を往復する馬車がのんびりと走るこの谷が大好きだった。やがて前方に見えていた教会や家々が大きくなってくると、アンデルマットに到着する。駅には氷河急行が停っていて、その中から、こちらをずっと見ている男がいた。