- 第一章 謎の携帯メール
- 第二章 紙片と数字2515
- 第三章 不気味な第二のメール
- 第四章 カタコンベの秘宝
- 第五章 ケルト模様の教え
- 第六章 追ってきたチェゲッテ
- 第七章
- 第八章
本文はフィクションで実在とは無関係です。
本文はフィクションで実在とは無関係です。
朝起きると快晴だった。谷奥には美しい氷河が見えた。美佐子はレストランでパンとチーズとバナナをもらうと、ザックを背負い、デジイチ、ストックを持って、谷奥へと歩き始めた。そして途中からハイキングコースを大きくはずれ、わくわくしながら稀少ランの生育する場所へと急いだ。
道なき道を歩くこと40分あまり、岩陰から大きな葉がちらりと見えてくると、美佐子は嬉しさから、思わず 「わぁ~、今年も元気でいてくれたんだぁ!」 と、ひとり大声をあげてしまった。
花は既に咲き終わっているが、大きな岩と岩の隙間には、いきいきと葉を伸ばしたランが数株あった。美佐子は、写真を撮って、生育データを採取すると、踏み跡が残らないように大きく迂回しながら、コースへ戻った。
この谷の村々には、“チェゲッテ”と呼ばれる、秋田の「なまはげ」のような怖い面を被った男たちが、まだ雪の深い2月の夜に家々を訪ね、子供たちを驚かす、という伝統的なお祭りがある。この習わしの始まりには諸説あるが、今は悪霊払いとカーニバルが一緒になったような感じである。
キッペル村の教会の近くに、小さな習俗博物館がある。このタールには青銅器、鉄器時代に既に人の往来があった。昔の農機具などの生活用具や、伝統的な衣服、チェゲッテの怖い面などが、たくさん展示してある。
美佐子は久し振りに、ここに寄ってみた。今日は朝早くから結構歩いたので、重いザックとストックを入口のおじさんに預け、館内を見学した。
入口でもらったパンフレットと、展示物をつけ合わせながら観賞したり、写真を撮ったりしていると、美佐子のところへおじさんがやってきて、「もう、今日はおしまいだよ」 といった。 夢中になって見ていたので閉館時間に気がつかなかったのだ。
博物館を出てバス停に向かうと、次のバスが来るのは30分後だった。仕方がないので、時間つぶしに次の停留所まで歩いて行こう、と、人気がない田舎道をぶらぶら歩き始めると、前から来る赤い車とすれ違った。その直後に、棒を振り翳した男が大声で叫びながら美佐子を追ってきた。