- 第一章 謎の携帯メール
- 第二章 紙片と数字2515
- 第三章 不気味な第二のメール
- 第四章 カタコンベの秘宝
- 第五章 ケルト模様の教え
- 第六章 追ってきたチェゲッテ
- 第七章
- 第八章
本文はフィクションで実在とは無関係です。
本文はフィクションで実在とは無関係です。
マルティニの町を観光した後、午後に、美佐子は、秋田の“なまはげ”のような習俗があることで知られるレッチェンタールヘ向かっていた。犬の博物館とレッチェンタールの博物館がコラボを組み、マスク展もやっている。この谷は、夏のハイキングのみならず、秋には真っ赤に燃える草紅葉がとても美しいことから、スイスでは人気コースの一つになっている。
それに美佐子にとっては、何よりも初夏に、谷の最奥のファフラーアルプから登る山中に、稀少ランが生育していることで、お気に入りのコースの一つであった。
幸い、この花は登山道から大きくはずれたところに咲き、真夏には葉ばかりの株になってしまうので、多くの人には気づかれず、盗掘などから免れている。 いつまでも美しい花を、咲かせ続けてほしいと心から願う。
美佐子は、スイスへ到着して以来、「あそこへ行け、ここへ行け」 と、名の知れぬメールで次々と指図されてきたが、今日はこれでやっと、自分が当初予定していたコースを歩ける、と、嬉しくなった。
マルティニを出てガンペル駅で下車し、ファフラーアルプ行きの路線バスに乗った。このバスは途中、カートレインでよく知られるゴッペンシュタイン駅で、ブリーク~シュピーツ間を走る電車と交差する。このアプローチは、時間的にはそれほどのメリットはないが、バスに座っていればファフラーアルプまで運んでくれるから、ブリークを回るより、ずっと楽だ。
今日もカートレインにはたくさんの車が乗っていた。 乗用車あり、大型バスありで、こんな光景は日本ではなかなか見られない。
ゴッペンシュタイン駅でバスが停車している間に、列車には一体何台くらい、車が乗っているのだろうか? と、数えていると、その車両の列の中に見覚えのある赤い車が見えた。中には二人の男女の影があった。
バスがしばらく停車している間に、たくさんのハイカーが乗ってきた。
そしてバスは、キッペル、ヴィラー、ブラッテンなどの村を経由して、最奥のファフラーアルプに到着した。美佐子はホテル・ファフラーへと向かった。