- 第一章 謎の携帯メール
- 第二章 紙片と数字2515
- 第三章 不気味な第二のメール
- 第四章 カタコンベの秘宝
- 第五章 ケルト模様の教え
- 第六章 追ってきたチェゲッテ
- 第七章
- 第八章
本文はフィクションで実在とは無関係です。
本文はフィクションで実在とは無関係です。
夏のマルティニは、すこぶる暑かった。 まだ朝の9時だというのに、もう外気は摂氏30度を優に超えているようだ。
美佐子は、「12時には戻ってきますから 」 と言って、ホテルのフロントに荷物を預け、街に出た。
そして裏の駐車場を抜けていくと、今朝方、ホテルの部屋から見えた赤い車の姿はもう既になく、その辺りには大型の観光バスが3台ほど停車していた。
美佐子は 「あぁ、やっぱり、人違いだったのか」 と、安心した。
今日は、午後にはマルティニを出発しなければならないので、はじめに街の一番奥の旧市街:ブールまで行って、それからガロ・ロマン博物館(ピエール・ジアナダ財団)、円形闘技場、セント・バーナード犬博物館という順で見て回り、戻ってこようと決めた。
ジアナダ氏が私財を投じ建設したガロ・ロマン博物館では、有名な「三本角の雄牛頭部像」の展示があり、電車の中や駅構内、そして街中には、その写真を掲載したポスターや立看板がたくさん見られた。
この地には、先住のケルト人が集落をつくって住んでおり、その後ローマ帝国の支配下に入ったため、ケルトからローマ時代にかけての遺跡や遺品などが、たくさん出土している。
10段ほどある階段を上って、博物館に足を踏み入れると、まずその奇抜さに度肝を抜かれる。 ガロ・ロマン時代の神殿跡が、なんと博物館の床面となって目の前にあるではないか。 そしてさらに周囲を見遣れば、壁には美しい壁画が描かれ、否応無しに古代へと引き込まれていってしまう。
ここで、もう一つ美佐子が気に入っているのはセント・バーナード犬の博物館である。 有名なサン・ベルナール峠のホスピス修道院が、人手不足から犬の飼育ができなくなり、4年ほど前に、その博物館ができたのだ。
金網やガラス越しではあるが、すぐ目の前に愛嬌たっぷりのワンちゃんたちが見られるので、美佐子は疲れたときに、よくここに寄っている。