スイスの写真

< 目 次 >
  • 第一章 謎の携帯メール
  • 第二章 紙片と数字2515
  • 第三章 不気味な第二のメール
  • 第四章 カタコンベの秘宝
  • 第五章 ケルト模様の教え
  • 第六章 追ってきたチェゲッテ
  • 第七章 
  • 第八章 

本文はフィクションで実在とは無関係です。

第六章 追ってきたチェゲッテ
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遠くから見ているので、顔などはよく分からなかったが、美佐子は、またあの男と女ではないか、と思った。 そして、早く朝食を済ませて、このホテルを出てしまおう、と、急ぎ荷物をまとめ、レストランに下りていった。
 レストランでは、すでにたくさんの宿泊客が食事を摂っていた。
このホテルは駅から近いこともあり、業務出張と思われるサラリーマン風の客や、スイスや他のヨーロッパ諸国からの観光客も多く見られた。
たぶん宿泊料がリーズナブルで、食事も美味しいことから、きっと人気のホテルになっているのだろう。
 美佐子は観葉植物の陰に席をとり、用心深く辺りの様子をうかがった。
レストランには、さっき赤い車から降りて来た男女と思われる二人は見当たらなかった。 美佐子は、その男女のことばかり気にしているので、きっと反射的にそう思ってしまったのではないか、もう少し冷静にならなければいけない、と、反省した。
 アタッシュケースを持ったサラリーマン風の客は、パンとコーヒーを飲むと、そそくさと出て行った。 その一方、団体客たちはパンやチーズ、ハム、ベーコン、サラダなどを、何回もお皿にいっぱいに取ってきては、にぎやかに会話を楽しんでいる。 短期間に駆け足で数箇所を見て回る、忙しい日本のツアーとは、大分ゆとり度が違っているようだ。
 マルティ二は、シャモニーや、サン・ベルナール峠へ行くときのキーステーションになっているが、その割りに、街中を歩いていても日本人観光客にほとんど出会わない。
 ここは歴史的にみてもローマ時代の重要拠点であり、貴重な建造物や遺跡がたくさんあるのに、通り過ぎるだけではあまりにも、もったいないのではないか。 どうも日本人のスイス旅行は、ハイキングに偏り過ぎているのでは、と美佐子は残念に思った。
 今日は、午前中にブールの旧市街、ガロ・ロマン博物館、円形闘技場跡、セントバーナード犬の博物館などを見て回ることにした。