スイスの写真

< 目 次 >
  • 第一章 謎の携帯メール
  • 第二章 紙片と数字2515
  • 第三章 不気味な第二のメール
  • 第四章 カタコンベの秘宝
  • 第五章 
  • 第六章 
  • 第七章 
  • 第八章 

本文はフィクションで実在とは無関係です。

第四章 カタコンベの秘宝
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その男は、修道院の前にある事務所に詰めるガイドであった。美佐子が修道院の入口の前で、うろうろしていたので、きっと中を見学したいのかと思い、声をかけてきたのであった。
この修道院の歴史は古く、4世紀に遡るという。時は、有名なローマ皇帝によるキリスト教徒の大迫害があった頃だ。皇帝から教徒迫害の命を受けた、エジプトから派遣されたテーベ軍団の指揮官マウリティウスは、自分の信念を押し通し、それに従わず殉職し、ここに埋葬された。
サン・モーリスの名は、このマウリティウスの名によっている。その後修道院は、破壊と再建を繰り返し、現在に至っているが、それだけの歴史がある修道院だから、ここにはさまざまな言い伝えがある。
またここには、メロヴィング時代に造られた真珠やカメオ、カール大帝の水差し、カンディードゥスの頭部像など、秘宝がたくさん保存されていることでも、よく知られている。
このガイドに頼むのは、有料だが、こうした貴重な秘宝や、それにまつわる伝説などを、面白おかしく説明しながら、内部を案内してくれるのだ。
また、ここにはカタコンベがある。 カタコンベとは地下に掘られた墓場のことで、有名なものではイタリアのローマに規模の大きなものが見られる。そのガイドの後に、観光バスから降りてきた17~18人の観光客がついてきた。聞くと、ヌシャ-テルで活動しているボランティアグループだという。既にリタイアした老夫婦たちのグループであったが、事前にガイドを予約していたのだろう。個人ではなかなかガイドをしてもらえないので、10フラン払って、美佐子もその仲間に入れてもらい、中を見学することにした。
ギィーッと、重たそうな音をたて、扉が開かれ、皆が中に入った。夏なのにひんやりと涼しかった。ガイドがステンドグラスやフレスコ画などを次々に説明してくれる。また、美佐子には英文のパンフレットを渡してくれた。回廊を通って、奥の小部屋の鍵を開けると、金や銀、いろとりどりの宝石類に飾られた、目を見張るような美しい秘宝が、整然と展示されていた。