- 第一章 謎の携帯メール
- 第二章 紙片と数字2515
- 第三章 不気味な第二のメール
- 第四章
- 第五章
- 第六章
- 第七章
- 第八章
本文はフィクションで実在とは無関係です。
本文はフィクションで実在とは無関係です。
美佐子は、予定ではグリンデルワルトに3泊するつもりだった。一日目は、前回途中で激しい雨にあい、泣く泣く引き返したグレックシュタインヒュッテへのハイキング、二日目は、ワルツを越えてアクサルプへ下るハイキング、三日目はラウターブルンネンの奥の方へ出かける予定だった。
8月も中旬になると、高山植物の数は目に見えて減り、花も傷んだものが多くなってしまう。温暖化のせいか、ひと昔前と比べると花の開花時期が半月ぐらい早まっているようだ。
それでもサラリーマンは、この時期か、5月のゴールデンウイークでないと、なかなか長い休暇が取れないから仕方がなかった。
そんなわけで、美佐子は、この時期でも、少しでも多くの高山植物が見られるよう、できるだけ高い山に登ろうと、ハイキングコースを決めてきた。
しかし、そんな願いは日本を旅立つやいなや、脆くも崩れてしまった。
折角、高いお金を払ってやって来たのに、何でこんな目に遭わなければいけないんだ、と、腹立たしくなった。
列車は空いていた。美佐子は窓側の席に座り、外を眺めながら、自分に言い聞かせるように、今日一日の出来事を順番に思い出し、整理してみた。
(1)家を出たときは確かになんでもなかったでしょ。
(2)N'EXに乗っているときは大幅に遅れたけど、特に問題なかったでしょ。
(3)税関を通るときも、ブザーが鳴ったけど平気だったでしょ。
そう一つひとつ消しこんでいっても、これといって変なことはなかった。
おかしなことが起こり始めたのは、やはり最初のメールが入った、飛行機に乗るころからだった。
列車はベルンを経由して、トゥーンの町を通過、やがて左手に美しいトゥーン湖が広がった。お天気は回復基調にあるのか、シュピーツを過ぎたころから雲が切れ、青空が大きく広がってきた。
真夏のスイスはまだ明るい。 遊覧船がゆっくり左から右へ走っていく。