スイスの写真

< 目 次 >
  • 第一章 謎の携帯メール
  • 第二章 紙片と数字2515
  • 第三章 不気味な第二のメール
  • 第四章 
  • 第五章 
  • 第六章 
  • 第七章 
  • 第八章 

本文はフィクションで実在とは無関係です。

第三章 不気味な第二のメール
2

また、差出人のない、メールだった。
そこには、「よけいなことをするな。すぐグリンデルワルトへ行け!」 とだけ書いてあった。
誰かが私を尾行している! そう思った美佐子は、はっとして辺りを見回すと、身をひるがえし、そそくさとエスカレーターに乗って、3番線ホームへ消えていく女のうしろ姿があった。
美佐子はスイスパスを取り出すと、駅の窓口に駆け足で向かった。
そしてパスポートを呈示して、「ヴァリデイトをお願いします。今日、今から使います。グリンデルワルトへ行きます」 と早口でいった。
いつも窓口の人が順番に聞いてくることを、美佐子の方が先回りして一気にしゃべると、急いでいることを察知したのか、窓口の女性は、グリンデルワルト行きの列車のタイムテーブルを打ち出し、「16時23分発、3番線から電車は出る。 そこのエスカレータで下に降りろ」 と教えてくれた。
これはスイスに来るといつも関心することの一つであった。幸い美佐子は、英語とフランス語がそこそこ話せたので、これまでも困ったことはなかったが、言葉が分からなくても、行き先と時間さえ伝えれば、直近の列車で、最も効率的なルートや乗換え情報などを教えてくれる。
さすがに観光立国、スイスである。いまの日本ではとても考えられないサービスだ。
そしてホームへ降りてみると、チューリッヒ中央駅行きの列車がちょうど発車するところだった。スイスの列車は、音もなく発車していくから注意していないと乗り損じる。
この列車は各駅停車のチューリッヒ行きだ。ゆっくり動きだした列車の窓ガラス越しに、日本人が手を振っているのが見えた。さっき途中で別れ、今晩はオエリコンのホテルに泊まるといっていた中年夫婦だった。
だが、それ以上に美佐子を驚かせたのは、飛行機の中で見たサングラスを掛けた薄気味悪い男女がその夫婦の前の席に座っていることだった。