- 第一章 謎の携帯メール
- 第二章 紙片と数字2515
- 第三章 不気味な第二のメール
- 第四章
- 第五章
- 第六章
- 第七章
- 第八章
本文はフィクションで実在とは無関係です。
本文はフィクションで実在とは無関係です。
美佐子の不安な気持ちとは裏腹に、ひとつだけ開いていたサングラスを掛けた女の横の小窓から、燃えるような赤い朝陽が差し込んでいた。
普通、機内で夜になると、客室乗務員が引っ掛け棒を持って窓を閉めて回るのであるが、この窓は女が閉めるのをいやがったのであろう、開いたままの状態になっている。今は乗客が座っていないので、なおさら大きな光が差し込んで、まだ眠そうな周辺の乗客たちは、不機嫌そうに目をこすっている。一体、二人はどこに消えてしまったのだろうか?
フライトインフォメーションを見ると、チューリッヒ・クローテン空港には予定より10分ほど早く到着しそうだった。美佐子は、飛行機がこのまま順調に飛行すれば、スーツケースのピックアップがないので、予定通り16時ちょっと過ぎの電車に乗れると、安心した。
陽が昇り、窓のシャッターが押し上げられ、一斉にライトがつけられると、機内は急に明るくなった。そして乗務員が温かいおしぼりを配り、やがて軽食が配られた。 それが終わると、機内が急に気忙しくなってきた。
機長より、チューリッヒ空港の到着時刻や気温、湿度などの気象情報が伝えられている。それによると、今日のチューリッヒは気温が摂氏20度、天候は曇り、とのことであった。そして、「今から20分後に着陸態勢に入いります、座席のリクライニングを元の位置に戻し、どなたさまもシートベルトをしっかりとお締めください」という機内アナウンスが入るや、飛行機は大きく旋回し、窓の下のおもちゃのような家並みや、美しい緑地はめまぐるしく回転し、見え隠れした。
数分後、飛行機の窓の外には美しいアカツメクサが一面に咲いていた。
そして飛行機が停車するか、しないかするうちに、皆通路に立ち上がり、その列が動き出すのを、今か、今かと待った。美佐子はサングラスの男女がその中にいないか注意深く探したが、それらしき人はみつからなかった。と、そのとき、美佐子は背後から肩をトントンと叩かれ、跳び上がった。