スイスの写真

< 目 次 >
  • 第一章 謎の携帯メール
  • 第二章 紙片と数字2515
  • 第三章 不気味な第二のメール
  • 第四章 カタコンベの秘宝
  • 第五章 ケルト模様の教え
  • 第六章 追ってきたチェゲッテ
  • 第七章 悪魔の橋で悪魔に会う
  • 第八章 急げ! 美佐子

本文はフィクションで実在とは無関係です。

第八章 急げ! 美佐子
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ツェルマットに着くと、美佐子は真っ直ぐホテル・スイス(仮称)に向かった。ホテル・スイスは教会の近くにあるので、駅からはちょっと歩くが、持てる荷物は小さなキャリー一つなので、そのまま歩いて行った。ここは、部屋からマッターホルンが見えるわけでなく、周りの立派なホテルと比べると、ひと目で格違いとわかるような小さな一つ星のホテルであるが、値段も安く、朝食も美味しいので、美佐子のお気に入りのホテルである。連泊なら、貸し別荘やアパートを借りるより安価で、便利である。今回は予約もしてなく、突然訪れたから、空いているかどうか心配だったが、顔馴染みのオーナーが便宜をはかってくれて、一人部屋が取れた。ツェルマットには、よく探すと、このような割安なホテルが結構ある。
美佐子は、これまでスイスへくると、昼間はハイキングなどに出かけてしまって、ほとんど部屋にはいない。夜寝るだけの宿なので、朝食さえ、みすぼらしくなく美味しければ、立派なホテルは必要ない、と感じていた。
もっとも、お金がたくさんある人にとっては、そんなことは関係ないことだろうが、安月給のサラリーマンである美佐子にとっては、滞在費を、5フランでも、10フランでも倹約できることは、とても助かることなのである。今回の旅行も、残り、あと2日になってしまった。このまま山にも登らず帰国するのでは、あまりにも、もったいないので、今日はお天気も良いから、ハイキングへ行ってみようと思った。そしてザックを背負って、ストックを持ち、メイン通りに出ると、たくさんの日本人ハイカーがヴィンケルマッテンの方に向かって歩いていく。お天気が良いからケーブルでクライン・マッターホルンへ上がるのだろう。
最近ここは、クライン・マッターホルンといわず、マッターホルン・グレッシャー・パラダイスと呼ばれている。シュヴァルツゼー・パラダイス、ロートホルン・パラダイスなど、昔を知る人にとっては、なんか違和感を感じる名だ。ツェルマットのメイン通りに日本人が経営している大きな土産屋さんがある。美佐子は、同僚にせめてお土産くらいはと思い、店内に入った。