新婚山行きの「ドリューの岩峰」で最愛のご主人と落雷に遭って
遭難し、死亡するという物語設定だが実話である。
小説の中では、同じころグランド・ジョラスをアタックしていた淑子
さんは、雷鳴の中に、聞こえる筈もない美佐子さんの声、
「淑子さん、さようなら」
を二度にわたって聞くのである。
私の恩師でもある、仏文学者で登山家の近藤 等氏は、
~ただ舞台の設定として若林美佐子が新婚旅行をかねた山行き
で遭難するのが、作品では ドリューの岩峰で、原因は落雷とな
っているのが、実際にはマッターホルンのイタリア稜での墜落で
あったといった程度の違いはある~
とその解説の中で結んでいる。
この「銀嶺の人」は新田氏が昭和36年の夏と41年の夏にアル
プスを周遊したときの体験が基礎になっているという。
そしてこの小説は昭和49年9月号から 昭和50年8月号まで
「小説新潮」誌上に連載された。
その後昭和54年に新潮文庫より発行されている。
40年代の初めにスイスを初めて訪ねた私にとって、後に読む
この小説は人生観を変えてしまうほどの大きな衝撃と感動を与え
た。
このサイトの中で私が使用しているハンドルネ
ーム、「美佐子」と「Misakott」については、
山仲間の人気者であったそんな美佐子さんが
ヴァーチャルな世界に生き続け、スイスの素晴
らしさを伝え歩くという設定で使用しているも
のである。
なお、新田氏はスイスアルプスについて多くの著書を残している
が、奥様である作家・藤原ていさんの戦後の大ベストセラー
「流れる星は生きている」も、舞台はスイスでないものの、大変
感動的な小説なので、ぜひご一読願いたい。
(絵と文:Misakott)