この話は「スイスアルプスの風に吹かれて」というコラムで掲載していたものをリニューアルして載せています。
スイスやチロルには数え切れないほどたくさんの湖があります。
レマン湖やヌシャーテル湖、チューリッヒ湖などスイスを代表するような大きな湖がある一方、山上には名もつかぬ池のような小さな湖が数知れません。
初夏のスイスでは、雪が融けたばかりのそれらの湖のほとりには、待っていましたとばかりに美しく瑞々しい高山植物がたくさん咲いています。
下の写真の小さな湖のほとりにも、ラヌンクルス・クエフェリが純白の可憐な花を一面に咲せていました。
そして、このクエフェリの花がまさに地の色となり、ヴィオラやエンチアン、プリムラなどが目の覚めるような鮮やかな青やピンクで、色を添えています。
そんな時、氷河を渡ってやってきた涼風 (すずかぜ) が辺りをすっとかすめると、たおやかな花びらは微かに戦ぎ、湖面に映った白い山陰は幻だったかのように消失していきます。
まるで自然が織りなすドキュメンタリーフィルムを見ているかのようです。
毎年毎年スイスを訪れ、わざわざ喘ぎながら高い山に登って可憐な花々に会いに行くのも、心に安らぎを与えてくれるこんな一瞬 (ひととき) があるからかも知れません。
下の花は、湖のほとりに一面に咲いている美しいラヌンクルス・クエフェリの花です。