早春にスイスの野山を歩いていると、林の下の落葉の中から可愛らしいセツブンソウが顔を出しています。
スイスに咲くセツブンソウは、日本の白い花とは違い、ヨーロッパ原産の黄色い花で、エランティス・ヒエマリスと呼ばれます。
(*ヒエマリスは日本では主として園芸用として売られたり、植物園などに植生されています。)
ただ、このころのスイスの気候は、毎日どんよりとした曇り空が続き、誰しもなんとなく憂鬱な気分になってしまいます。
それが5月にもなると、陽はだんだんと高く昇るようになり、人たちはみな、明るい陽光と、次々と花を咲かせる可憐な花たちに元気をもらいます。
ドイツの伝説に、色を持たない透明な雪に請われて、自分の白い色を与えたという、心の優しいスノードロップの話がありますが、この花も残雪の中からそっと顔を出し、可愛らしい純白な花を一輪、二輪と咲かせます。
一方、そのころタールでは、雪解けを待ちきれないかのようにクロクス(クロッカス)が、可愛らしい花を一面に咲かせます。
一面の雪に覆われていたタールは、日を追うごとに白銀の世界から、白と、淡い紫いろに塗り替えられていきます。
あたかもその絵筆によるかのように、花たちは数ヶ月もかけて、ゆっくり、ゆっくりと、山の上へ、上へと上がっていきます。
そして初夏にはグリンデルワルトにあるフィルスト周辺まであがり、アイガーをバックに美しい花を咲かせます。