ある年の初夏、今日は朝からとても良いお天気なので、私は、隣り村までハイキングに出掛けることにしました。
その隣り村というのは、山ひとつ隔てた向こう側の谷にありますので、一旦この谷を出て大きく迂回すれば電車やバスでも行かれます。
しかし、峠越えをして歩いて行く途中には、数百年を超える木造の古い小さな教会があります。
それを見るため、ハイキングを兼ねて敢えて標高差1200mくらいある厳しい峠を越えて行ってみることにしました。
案の定、コル付近は大きな岩がゴロゴロとしたガレ場がつづき、そこを越えて、やっと向こう側の山の斜面に出るのです。
そしてそこからハイキング道を下って行くと、やがて遠くに小さな教会の屋根が見えてくる頃、湿原が現れ、キケルビタの花が群生しています。
また、すぐ近くの丘の上からは、古い木造の教会が静かに見下ろしています。
もう今では鳴らぬこの教会の鐘の音に、時を知る術を失った花たちは、きっと昇る朝陽に目を覚まし、虫の声に夕を知り、毎日祈りを続けているのでしょう。
キケルビタ・アルピナ(Cicerbita alpina)はキク科キケルビタ属の花で、決して珍しい花ではありませんが、鮮やかな緑を地の色にして、黄色いキンポウゲに混じって一面に咲く、その高貴なパープルいろは、とても美しく印象的です。