ある年の夏のこと、大昔に訪ねたことのある氷河に、近づけるだけ近づいてみました。
しかし、残雪を何度かトラバースし、確か、この辺りまで氷河の末端があったよな、と思った場所には、乾いた岩がゴロゴロと、むき出しになっていました。
遠くから眺める氷河はカチン、カチンに凍った氷の塊のように見えるのですが、その青白い先端は、少しずつ溶けて、ぽたっ、ぽたっ、ぽたっ、とゆっくりしたリズムを刻みながら、雫を落としているのです。
近年の地球温暖化による影響は、氷河の後退に、如実に見られます。
やけに耳についた、その音に心を痛め、モレーンの上の道を下ってくると、遥か遠くに、キラキラと白く輝くところが見えました。
その方向には、氷河が溶けて出来た小川が、緩いカーブを描いて流れていきます。
そして近づくにつれ、それがワタスゲの群生地だと分かりました。
吹く風に、ゆらゆらと揺れています。
自然界には、心が安らぐ 「1/ f のゆらぎ」 が、いろいろと存在するのですが、その一方で、規則正しいリズムとともに、何か大きな破壊が一歩、一歩、忍び寄ってきているかと思うと、身震いがしてきます。
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