美佐子のスイスひとり旅

   = No.4 =

この年の東京の夏は異常に暑かった。 梅雨らしい雨もなく、毎日30度を超す日が続き、夜も熱帯夜の連続。私は涼を求めてスイスへ向かった。
目指すところは、スイスの秘境ソーリオの村とウンターエンガディン、そしてオーストリアチロルのハイキングである。
*この年=2000年8月
絵:サンモリッツ・セガンティー二美術館 by K.Kojima

いつものようにスイスエアーでチューリッヒに入り、時間を有効に使い たいため、その日のうちにクールへ移動する。
宿泊先は、ホテルの2階にカリジェの絵がたくさん飾ってあるホテル・シュテルンだ。

そして翌朝一番の電車でドシャ降りの中、サンモリッツへ向かう。 サンモリッツにはこれまでも何回か来ているが、いつも山登りやハイキ ングを優先してしまい、セガンティーニ美術館を訪れることができなか った。今回はドシャ降りが幸いし、やっとのことで念願の三部作を心 ゆくまで楽しむことができた。

「生ー自然ー死」の三連祭壇画は2階の円形ホールに飾られているが、 何よりも驚いたのはその大きさである。写真では何度も見ていたが、 これほど大きな絵だとは思ってもいなかった。2階ホールはこの3点だ けでいっぱいである。3点とも素晴らしいが、特に「死」には全く暗いイメージがなく、それどころか死の向こうにこれほどまでの明るい未来を描けるものか、と大きな感動と衝撃を受けた。

そしてこの絵を描いた場所にどうしても行ってみたくなり、翌日その舞台となったソーリオの村とマロヤの村へ向かうことにした。


=セガンティーニやカリジェの絵のふるさとを訪ねて=




エンガディン地方にはたくさんのハイキングコースがあるが、危険性が少 なく、花がたくさん咲いていて、手ごろなコースをいくつか紹介する。


  ~ ヴィコソプラーノからのハイキングとソーリオの村 ~


ソーリオの村

サンモリッツの朝は昨夜来の雨が残り、気温も 10度以下である。なんと東京とは20度以上の 温度差だ。サンモリッツ駅前の左手の広場から イタリアとの境にあるカスタセーニャ行きのPTT バスに乗る。 バスは美しいサンモリッツ湖、シルバプラーナ湖 岸沿いを走り、20分ほどでシルス・マリア村に
着く。ここは湖に囲まれた大変美しい村である。さすがに、かつて犬養道子さんをして 年を取ったらスイスで最も住みたい場所である、と言わしめただけのことはある。

バスはさらに進み、やがて山岳画家で有名なセガンティー二の三部作「死」にも描かれた 古い村:マロヤを経由する。セガンティー二はこのマロヤ付近とそこから見えるベルゲル のマロッツ渓谷を描いている。時間があったらぜひバスを降りて村の中を見学されると良 い。 ただし、次のバスはまた1時間半以上待たないと来ないのでその覚悟が必要ですけど・・。

小さな村を過ぎるとバスは右に左にハンドルをきりながらマロヤ峠を下って行く。両側は杉 林の山、このイタリアへと続く谷間をバスは進み、スイス最奥のソーリオの村へと向かう。 1時間以上走っただろうか、やがてハイキングコースの起点であるヴィコソプラーノのバス 停に着く。ここでバスを降りて右側の山側に向かって歩くとソーリオの村へと続くハイキン グコースが始まる。古い橋を渡り、細い砂利道のハイキングコースを上って行く。ここは林 の中を歩くので、ほとんど展望は利かないが、時々木の合間からブレガーリア山群が見える。




サンモリッツの朝



サンモリッツ広場の



アルプホルン祭り


スイスでは雪をかぶった山々や氷河を見ながら歩くコースが多いが、ここではただ黙々と 歩くだけだ。3時間半ぐらい歩いただろうか、林を抜けると前方下の方に突然のように異 様な村が見えてくる。思わずここはどこだ? と頭の中で記憶をたどる。 どこかの国の 鉱山の廃家か? はたまたアンデス山中で突然ジャングルの向こうに見えた村か?  すぐには記憶を整理できない。 ツェルマットなどで多く見られる灰色の石板を載せた平石屋根の家々と高くそびえる塔! しばし茫然となってこの景色に見入る。

作家の新田次郎さんが佐貫亦男さんと歩いて綴った書「アルプスの谷、アルプスの村」の 中で二人して感嘆したアルプスの昔ながらの村である。 小さな村ではあるが、レストランも2軒ほどある。時間があったらぜひここで食事をとり、 ゆっくり村を見てまわってくださいね。もっとも30分もあれば見て回れてしまいますが・・。 水飲み場から遠く雪山を望むアングル、今にも崩れ落ちそうな路地裏の階段、その一つ ひとつが絵になる光景だ。

セガンティー二の三部作「生」の背景はここから見たイタリア国境の山々と言われている。 セガンティー二はソーリオの村で「生」を、シャーフベルクから見たサンモリッツの家々と オーバーエンガディンの秋を題材に「自然」を、そしてマロヤの村で「死」を描いていた。 しかし、残念ながら「自然」を創作中に急性腹膜炎でこの世を去ることになる。 その三部作は、今は「生成ー存在ー消滅」と呼ばれている。

帰りはアイスクリームと絵葉書などを売っている小さなお土産屋さんの前のPTTポスト からバスに乗り、狭い道をいとも簡単にUターンし、急な山道を一気に下り、石瓦の家が 美しい村:プロモントーニョで乗り換えてサンモリッツへ帰る。 時間があれば、この村も歩いて見てほしいところだ。

 ・所要時間: ヴィコソプラーノ ~約4時間~ ソーリオ村
 ・ソーリオ村から逆に歩き、シュタンパあるいはヴィコソプラーノへ下りるのも良し






ソーリオの村



ソーリオの村

ソーリオの村

ソーリオの村

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文と写真 by K.Kojima