スイスの写真

< 目 次 >
  • 第一章 謎の携帯メール
  • 第二章 紙片と数字2515
  • 第三章 不気味な第二のメール
  • 第四章 カタコンベの秘宝
  • 第五章 ケルト模様の教え
  • 第六章 追ってきたチェゲッテ
  • 第七章 悪魔の橋で悪魔に会う
  • 第八章 急げ! 美佐子

本文はフィクションで実在とは無関係です。

第八章 急げ! 美佐子

駅前までくると、今度は右へ大きくターンし、ゴルナーグラート鉄道駅の横を抜け、フィスパ川を渡って、スネガへ上がる地下ケーブルの乗り場へと走った。この地下ケーブルはツェルマットの村はずれから、ずっとトンネルの中を通り、わずか3分ほどで標高差700m弱を一気に上ってしまう。
そして頂上駅で降りれば、標高2300mに素晴らしい展望台があり、晴れていればマッターホルンが眼前に見える絶好のビューポイントである。
 今日も大勢のハイカーが、ライゼーから、シュテリゼー、グリンジゼー、グリュンゼーへと回る湖水めぐりや、フィンデルン村の方へ歩いていく。
美佐子はそんな美しい景色を見る暇もなく、ブラウヘルト行きのロープウェイ乗り場へと急いだ。そしてブラウヘルトを経由し、次の、ウンターロートホルン駅で降りると、近くの草地にすわりこみ、さっき買った地図を思いっきり大きく広げた。時折吹く風が、地図を執拗に捲り上げる。美佐子は背負っていたザックやストックを重し代わりに置き、それを抑えた。
足元には、スイス三大名花のエンツィアンや、ピンクの色が美しいモスキャンピオンが一面に咲いていた。
美佐子は地図の南北を合わせ、位置を確認すると、急坂を一気に下り、ハイキングコースの脇を注意深く見て歩いた。 やがてヴァイスホルンが美しい姿を見せるころ、足元には可憐なエーデルワイスがたくさん咲いていた。そして急ぎデジイチを取り出し、夢中になってシャッターを押した。
これまで美佐子を、さんざん苦しめてきた、謎の数字 「2515 626 627 66 67」 は、マップでエーデルワイスの咲いている場所のヒントを与えてくれていたのだった。そしてモニターで画像を一枚一枚確認していると、後方に、何となく人の気配が感じられた。振り返ると、少し離れた所にサングラスを片手に持った男女が微笑みながら、小さく、何度も何度も頷いているのが見えた。その脇には、一人の日本人が立っていた。
「あ~、ひどい 犯人は邦さんだったのね!」美佐子も、にっこり笑った。 

(終)  あとがき→