スイスの写真

スイスの写真

< 目 次 >
  • 第一章 謎の携帯メール
  • 第二章 紙片と数字2515
  • 第三章 不気味な第二のメール
  • 第四章 
  • 第五章 
  • 第六章 
  • 第七章 
  • 第八章 

本文はフィクションで実在とは無関係です。

第一章 謎の携帯メール
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電車は10分経っても15分経っても一向に動く気配がなかった。孤独で時間に迫られているときほど強い不安感を抱くことはないだろう。 さすがの美佐子も心配になり、斜向かいに座っている中年夫婦に話かけた。
 「私、困ってしまいます。 いくら遅くても成田に9時には着かないと飛行機に間にあわないんですよ」
と、美佐子はいった。
 「そうでしょう、私たちも今、それで困っているんですよ。 あなたはどちらへいらっしゃるのですか?」
と、上品そうな奥さんがいった。
 「スイスです。10時25分発のエアーで・・。」 と、美佐子が早口でいうと、
 「あぁ、それなら私たちと一緒の飛行機だ。 チューリッヒ行きだよね」
と、今度は白髪のご主人の方が身を乗り出していった。
美佐子はそれを聞いた途端、なんだか、ふっと緊張感が薄れていくような感じがした。
 空港に着いたときには既に9時をかなり回っていた。
美佐子は中年夫婦と一緒に、キャリーを引きながら急ぎチェックインカウンターへ向かったが、3箇所ほど開いているカウンターは、どこも順番待ちの乗客で長い列ができていた。
 焦る気持ちを抑えながら、その中でも列が比較的短く、かつ、大きな荷物をたくさん持った外国人があまりいないところを選んで、列の一番後ろに並んだ。
 美佐子はスイスへ行くときはいつもフライ&レイルバゲッジという荷物託送システムを使ってスーツケースを最初の滞在地まで送っている。
緑色のタグに荷物の届け先「Grindelwald(グリンデルワルト)」と書き、他の必要事項を記載したうえ、スーツケースとともに係員に依頼した。
 出発時間が迫っていることを察した係員は手際よく処理してくれたが、それでもボーディングパスを手にしたときは、すでに搭乗が開始されていた。