ツェルマットやサースフェーがある地方をヴァリスと呼ぶが、この近辺にはエレマンスの谷、エランの谷、アニビエの谷など、大変魅力的な谷がたくさんある。そしてその中の一つ、エランの谷の奥には、エヴォレーヌという小さな村があり、黒く煤けたような色をした木造の家々が建ち並び、その窓辺には赤や黄色のゼラニウムがこぼれるように飾られている。ここはスイスの昔ながらの面影を色濃く残す大変美しい村である。

比較的近いツェルマットがあまりにも開け過ぎてしまい、つまらなくなってしまったことから、最近は急激に山を一つ隔てた隣の町・サースフェーの人気が高まっている。サースフェーも昔は静かな村で、ほとんど日本人は訪れなかったが、今では旅行社がツアーを組んで訪れたりして、かなり観光地化されてきてしまった。ここもまたすぐツェルマットのようになってしまうのでは、と心配になる。

ヴァリス地方の中では、ツェルマットやサースフェーに次いで、人気が高まるであろうと思われるのがこの谷奥の村々である。マッターホルンのような有名な山や、見どころがたくさんあるわけでないので、ツェルマットほどの賑わいをみせることはないと思うが、じっくりと昔ながらのスイスを味わいたい方には大変魅力的な村で、ぜひ一度は訪ねて欲しい村である。


エランの谷では、ぜひエボレーヌの村に泊まり、氷河が美しいアローラやフェルペクルを訪ねてみよう。
私は久しぶりの訪問だが、ここも昔に比べれば、かなり観光地化されてしまっているのでは?という一抹の不安と、そうなっていて欲しくないという願いを胸に、はやる気持ちを抑えてシオン駅へ向かう。
エボレーヌの村へはシオン駅からPTT(郵便)バスに乗り、40~50分ほどで行くことができる。昔は、バスは一日4~5本くらいしか出ていなっかったが、今は随分多く運行されている。

 

PTTバスは駅前から出ているのであるが、一日の運行本数は少ないし、最終便も時間が早いので注意が必要である。バス便のタイムテーブルはSBB鉄道のHPで調べることができるのでぜひ参考にされると良い。時刻表検索ソフト「エキスパート」のように行き先を入力して検索するが、目的地へ行くまでのバスの停留所まで知ることができる。

ここからレ・ゾデール行きのバスに乗り、ブドウ畑の山裾を登って行くと、やがて左手に帽子をかぶったような円柱石・ウーゼーニュのピラミッドが見えてくる。
風と水の浸食でできたものであるが、まるで”きのこの岩”のようである。奇岩ではあるが、バスをわざわざ降りて見るほどのものでもないし、降りると次のバスまでまた1時間位待たねばならないので、バスの中から写真を撮るだけにした方がよい。


エボレーヌの村と教会


エボレーヌの村

バスは奇岩群で出来たトンネルのような下をくぐり、しばらく走ると4000mを超すダン・ブランシュ山の白いピークとフェルぺクルの氷河が見えてくる。さらに右へ左へ大きくカーブしながら40分ほど走ると、やがてエボレーヌの村に着く。村は、人口わずか300人程度の集落で、カラマツで造った赤茶けた色のシャレータイプの家が建ち並ぶ。これらは主として16世紀に建てられたものであるが、近くの畑ではいまだにお年寄りが民族衣装で野良仕事をしているのが見られる。

エボレーヌに宿泊したら、翌日はぜひエボレーヌからバスに乗り、レ・ゾデール経由でアローラへ行き、そこから今来た方向へ戻るように続くハイキングコースを歩いてみよう。
アローラの村にあるホテルの裏から上へ少し登り、右方向へ行くとスイスで一番透明度か高く、大変美しいブルー湖へと続くハイキングコースが始まる。
ここは余り標識がキチンとしていないので分かり難いが、右下にさっき来たバス通りが平行して走っているので、それに沿うように山の横腹を歩いて行けば間違うことはない。


レゾデールの中心地


ブルー湖

余りアップダウンのない道を、林の中を出たり入ったりしながら2時間位歩けば、やがてゆるい下りが続き、視界がパっと開けた所に出る。牛が草を食み、その向こうの少し下がったところには透明度が高い青い湖が見えてくる。ここがブルー湖であり、たくさんのハイカーが家族連れで水遊びを楽しんでいる。
そして帰りは、湖の横の道を下れば、30分足らずでさっき通ったバス停の「ラ・グーユ」に出るので、そこからバスに乗ってレ・ゾデールへ戻ればよい。ただし、バス便は少ないので、予め時刻表で確かめておくようお奨めする。



ブルー湖


アローラ

また、時間的な余裕があったらレ・ゾデール経由でフェルペクル氷河を見に行ってみよう。フェルペクルのバス停を降りて、ハイキング道を20~30分ぐらい歩けば、氷河を手で触ることができるくらいのところまで近づける。
昔に比べ、ここも大分氷河が後退してしまっていたが、まだまだ迫力ある景観だ。手前には赤、青、黄色の高山植物が咲き乱れ、近くには主峰ダン・ブランシュが天高く聳える。


アローラ

フェルペクルの氷河


エボレーヌには食事のおいしいお店がいくつかあるが、村のはずれにあるレストラン「ル・レフュージュ」は特においしいのでお薦めである。焼けた石の上で肉を焼き、マスタードなど何種類かのソースをつけるピエラーデという料理は日本人向けでとても美味しい。その他にも、きのこ料理も美味しいのでぜひ試してみてください。そして、何よりも嬉しいのは、店員さんの教育がよく行き届いていて、大変気持ちが良い。

Café-Restaurant 「Le Refuge」
Téléphone (027)283 19 42

ホテルは、二つ星が最高で、hõtel hermitage evolèneなどがある。私は下記の二つ星ホテルを利用した。 Hotel-Garni "ARZINOL" といい、料金はバスの共同利用で、45CHF/une personne。民宿よりちょっと良い程度だが、ご家族には大変親切にしてもらった。